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ペロシ米下院議長の台湾訪問に強く反発した中国による台湾周辺での軍事演習は、東アジア情勢にも緊張をもたらしている。こうした中で日中両国は、9月29日に国交正常化50周年の節目となるが、これを祝賀ムードで迎えることは決してできない。官民を含め日本側は、記念式典など一連の行事は即刻中止すべきである。中国側に誤ったメッセージを送ることがあってはならない。
中国軍は今回の大規模な軍事演習で、台湾を取り囲むように6カ所に実弾射撃訓練を実施する空・海域を設定し、日本の排他的経済水域(EEZ)内にも弾道ミサイルを撃ち込んでいる。
こうした行為は、日本や在日米軍への攻撃も視野に入れた極めて敵対的な軍事的対応と見るべきだ。もはや日中両国が友好的な雰囲気にあるとは到底言えない。
日中国交正常化50年をめぐっては、すでに各地で祝賀関連イベントなどが開催されている。そして国交正常化の共同声明を出した9月29日には、東京都内で記念式典をはじめとする民間主体の「記念慶典」が予定されている。
この記念慶典は外務省が後援し、慶典組織委員会の最高顧問には、親中派として知られる自民党の福田康夫元首相や二階俊博元幹事長らが名を連ね、経団連なども協力する予定だという。日本としては、こうした祝賀行事について中止を決断すべきだ。
先進7カ国(G7)の外相は、ペロシ氏の訪台について「攻撃的な軍事行動の口実にすることは正当化できない」とする共同声明を発表した。
これに対し、中国外務省の鄧励(とう・れい)外務次官は、垂(たるみ)秀夫駐中国日本大使を呼び出して抗議した。なぜ、ミサイルを発射した中国側に日本側が呼び出され、抗議されなければならないのか。
日本のEEZに弾道ミサイルが着弾したのを受け、日本の外務省は森健良事務次官が中国の孔鉉佑(こう・げんゆう)駐日大使に抗議したが、電話で済ませたのには驚くほかない。
そもそも岸田文雄政権は、中国による今回の軍事演習に対し、国家安全保障会議(NSC)をいまだ開催していない。台湾有事は日本有事に直結するという危機感があまりに欠如している。
岸田首相には一国の指導者として、毅然(きぜん)たる態度で中国にあたってもらいたい。
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2022年8月9日付産経新聞【主張】を転載しています